Researcher5
政策研究事業本部 東京本部
執行役員 副本部長
主席研究員
矢島 洋子
「生きづらさを感じる人を
少しでも減らしたい」
力のある調査を武器に、
会社の枠を超え活動する。
経歴
1989年入社。慶應義塾大学法学部政治学科卒。新卒採用第一期生。一般職での入社から翌年総合職に転換した。出向先の内閣府における男女共同参画分析官や、日本女子大学「ライフロング・キャリア・デザイン講座」講師等、社内外を問わず多くの活動実績がある。2024年現在は、厚生労働省「労働政策審議会雇用環境・均等分科会」委員やこども家庭庁「こども家庭審議会基本政策部会」委員を務める。
私の信念
研究員として正確な調査を行えることは極めて重要です。しかし、それはプロフェッショナルのスキルとしては基本的なこと。本当に大切なのはその調査結果から何を読み解くか、ではないかと考えています。調査やデータには人を動かす力があります。それゆえに、数字の奥に見える人々や世の中の姿に思いを致し、さまざまな角度から問題の本質に迫り、それを社会に発信することが研究員には求められていると思います。
私の仕事
政策研究事業本部は、官庁受託が中心の部門です。私は、少子高齢化社会対策や男女共同参画の視点からダイバーシティマネジメントやワーク・ライフ・バランス等に関する調査研究を行っています。
たとえば「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、いわゆる女性活躍推進法では、厚生労働省から法律の施行にあわせて、企業向けのマニュアル作成を受託しました。この法律によって従業員301人以上の事業主は、自社の女性活躍の状況把握と課題分析・女性活躍を促進するための行動計画策定、そして、これらの開示が義務づけられました。しかし、多くの企業では、どのように課題を分析し、行動計画を策定すべきかのノウハウはありません。そこで、手順を示したマニュアルの作成を当社が引き受けることになったのです。ただ、法案が成立したのは2015年8月で、企業が行動計画を策定し公表したのは2016年の4月1日。企業が行動策定に費やす時間を考えれば、私たちに与えられた時間は、非常に限られていました。しかも、業界も従業員構成も組織風土も異なる多様な企業で使用できる汎用性の高い共通手法を構築しなければなりません。
結果的に、多くの企業から評価をいただけるマニュアルを作成できたのは、過去の知見を的確に取り入れるとともに、プロジェクトメンバー一人ひとりがタスクの着実な遂行とその精度向上に力を注いだおかげです。
この法律が施行されたこと、また求職者の働き方に対する意識の変化が追い風となり、企業の間では自社の労働環境の見直しや、ダイバーシティや働き方に関する情報の公開が進んでいます。男女問わず、人気業種であっても、労働時間や休日取得等で、応募者に「働きづらい」と思われると、採用が難しくなってきている現実があるからです。そのため、長時間労働の是正や「在宅勤務の促進」等、「働き方改革」につながるコンサルティングを依頼する企業が増えています。Google社との協力で実証実験を行った「未来の働き方プロジェクト」もそのひとつです。これは、テクノロジーを活用した柔軟な働き方で女性の社会進出を支援しようというIT企業ならではのアプローチで話題となっています。
このように近年は、調査によって課題を浮き彫りにするだけでなく、その解決法や対策まで求められる傾向が強くなっています。それは成果を厳しく問われることでもありますが、反面、社会への貢献を実感しやすく、大きな手応えを感じられるようになってきているとも言えます。
手がけたプロジェクトの一部
「ポジティブ・アクション見える化事業」
(厚生労働省)
Google
未来の働き方プロジェクト
民間企業を対象とした働き方改革
「仕事と家庭の両立に関する
実態把握のための調査」
(厚生労働省)
私の
とっておき
共著で2014年に出版した『介護離職から社員を守る』と2024年に出版した『仕事と子育ての両立』です。ワーク・ライフ・バランスの2大テーマとも言える「子育て」と「介護」と仕事の両立について、長年当社で取り組んできたさまざまな調査研究を踏まえ、課題と企業の支援の在り方を紹介しています。『仕事と子育ての両立』は、古くからのテーマでもありますが、あらためて<共働き・共育て> の時代に、「女性のキャリア」と「男性の子育て」に焦点をあて、問題提起をしています。また、昨今大きな課題となっている、「子育て社員と周囲の同僚との公平感」や「地域の子育て支援」の課題等も紹介しています。
仕事の醍醐味
シンクタンクが行う調査は「政策検討に資する調査」、つまり「人を動かせる調査」であることが重要だと考えています。つまり、問題があることを指摘するだけでなく、解決へとつながる出口を示す調査です。たとえば、弊社が独自に行った「仕事とがん治療の両立に関する調査」の場合、がん治療によって離職者がどの程度いるかを調査しがちですが、私たちは両立できている人にスポットを当て、どういう人や職場環境なら両立が可能になるのかを提案することをめざしました。このように調査軸を工夫し、“力”のある調査を行うことで、さまざまな媒体に引用され、施策や取り組みの根拠として活用され、研究員としての喜びを感じることができます。
5年後の私
プロジェクトリーダーを務められる人材の育成を大切に考えています。そのために、案件のリーダーの役割は後進に任せ、私自身は職場環境づくりや案件の獲得、プロジェクト内でメンバーとしてチームを支えることに注力し、彼らが成長する機会を数多く提供していきたいと思っています。さらには、新たなテーマの調査研究やコンサルティングメニューの開発、プロボノ活動等に積極的に挑戦していくこと、また執筆、講演等の対外的活動等を通じて、当社の存在感をより高めていけるようになっていたいと考えています。
心に残るエピソード
私は、出産のために一度当社を辞めています。その際、当時の会長に「完全に会社を離れるのではなく、少しでも会社とのつながりを持っていたほうがいい」と声をかけていただき、嘱託の研究員という肩書きをいただきました。また、出産後、子どもを連れて会社へ顔を出したときは、当時の部長から「子どもがある程度大きくなったら、会社に戻ってきませんか」と。さらに内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官として出向したときも、社命ではないにもかかわらず休職を認めていただきました。このように、当社には個々の社員の生き方を尊重する風土があり、社員のライフスタイルに応じた柔軟な働き方が認められたからこそ、今の私があるのだと痛感しています。