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Frontier 06

EBPM・政策評価

政策立案に“根拠”という力を。
行政をアップデートするエビデンス活用
中村 圭
副主任研究員
政策研究事業本部 東京本部 経済財政政策部
2023年入社/国際公共政策研究科 修了

金融機関、シンクタンク勤務を経て2023年に入社。中央省庁・地方自治体におけるEBPM・政策マネジメント・データ利活用に関する支援の他、税財政に関する調査業務等を中心に従事。

Kei Nakamura

Q1 背景や課題は?

何が違う?
EBPMの“根拠”とこれまでの『根拠』

2018年頃より、EBPM(Evidence-based Policy Making : 根拠に基づく政策立案)という取組が中省庁・地方自治体において進められています。

「“根拠”に基づく政策立案」というと、「これまで『根拠』に基づいていなかったのか?」と疑問に持たれるかもしれません。確かに、「本当にデータや事実といった『根拠』に基づいているのだろうか?」と疑問に思う政策があるかもしれませんが、行政現場ではさまざまな場面でデータ等の客観的な根拠に基づいて政策の改善に取り組んできています。

EBPMにおける“根拠”は、これまでのデータや事実等の根拠に加えて政策の因果効果も重視しています。政策の因果効果とは、その他の要因ではなく政策による純粋な効果であり、ランダム化比較試験等の統計的な手法を用いて分析されます。政策の因果効果はエビデンスと呼ばれます。

EBPMという名称の取組は比較的新しいものであり、参照できるエビデンスが十分に整備されていない、因果効果を分析するためのデータ・専門性・ノウハウが十分に蓄積されていない等乗り越えるべき課題は多くあります。

Q2 アプローチの方法は?

政策の因果効果の有効活用に向けた
政策形成プロセスの改善

EBPMにおける課題はさまざまありますが、EBPMで求められる“根拠(エビデンス)”等の専門知が、行政現場で政策の高度化につながるような支援を重視して取り組んでいます。

EBPMにおける支援では、政策の因果効果を分析するための効果検証デザインの設計や実際の分析、既存のエビデンスを調査・整理する「エビデンスレビュー」等、エビデンスに焦点を当てた取組はまだ十分とは言えませんが、他社も含めて着実に進められています。

しかし、エビデンスがあっても良い政策につながらない場合も少なくありません。例えば、政策の目的がぼんやりしたまま手段の検討を進めてしまう場合や、活用や見直しの見込みが低い取組に対して丁寧な効果検証を行ってしまうようなケース等です。

EBPMの支援では「エビデンスを創出・活用すること」だけでなく、「政策の質の改善」や「政策形成プロセスの見直し」を目指すことが重要と考えています。

具体的には、政策の目的を明確にするためのワークショップの実施や、より効果的な政策立案・マネジメントのための検討プロセスの整理、組織としてEBPMを実践するための体制構築、さらには個別施策や事業に対する伴走支援等、さまざまなアプローチを通じて行政のEBPM実践を支えています。

Q3 乗り越えるべき壁は?

形だけで終わらせない。
EBPMの本質を考える

EBPMは近年注目を集めていますが、行政評価や事業仕分け等、過去にも政策改善を目的とした取組は定期的に行われてきました。しかし、「行政評価の形骸化」という言葉があるように、形式的な作業だけが残り、本来の目的である政策改善への寄与が薄れてしまうケースも少なくありません。

EBPMがそのような形で残らないためには、まず、中央政府・広域自治体・基礎自治体等、それぞれの実施主体においてどのようなプロセスや取組が政策改善に有効かを具体的に整理する必要があります。また、現場職員がEBPMに前向きに取り組める環境を整えることも重要です。

良い政策は、机上の立案だけでは実現できず、多くの調整を伴います。そのため、意思決定や価値判断といった調整の過程と、客観的な根拠に基づく分析・検討過程の両方が重視されるバランスのとれた仕組みづくりが求められます。

Q4 どんな未来を思い描く?

エビデンス活用が変えていく
より良い政策形成

現場の行政職員が、エビデンスを含む客観的な根拠を必要に応じて参照・分析し、政策の高度化に向けた検討や議論を主体的・積極的に行うことができている状態を目指しています。

特に、エビデンスの活用という観点では、政策の高度化に有効なエビデンスを適切に特定し、それがある場合には有効活用できることが重要です。こうした状態が実現すれば、エビデンスだけでなく、他の学術的知見の活用にもつながると考えています。

私たちは、10年後、20年後にEBPMが「一時的なブームだった」と評価されるのではなく、その時々のより良い政策形成やマネジメントの在り方に確実につながっていることを理想としています。

「共創する知」響き合う専門性で未来をつくる