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Frontier 08

地域包括ケア・介護

人口減少時代に挑む、ケアの再設計。
“介護”を超えて、地域で支え合う未来へ
伊與田 航
副主任研究員
政策研究事業本部 名古屋本部 研究開発第2部(名古屋)
2018年入社/医学系研究科 修了

入社後、国や自治体の福祉政策や地方創生等の業務を経験。現在は超高齢社会におけるさまざまな課題解決をテーマとして、地域包括ケアシステムや介護保険制度等に関連する幅広いプロジェクトを担当する。

Wataru Iyoda

Q1 背景や課題は?

進む高齢化と人材不足。
埋まらない需給ギャップ

高齢化が進展するなか、我が国では介護が必要になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられる「地域包括ケアシステム」の構築が進められてきました。

団塊の世代が後期高齢者になる2025年を迎え、全国的には今後さらに介護ニーズが高まることが予測されています。また、今後はひとり暮らしや子どものいない高齢者が増加するため、これまで家族等が対応していた日常生活のちょっとしたサポート等が支援ニーズとして顕在化してきます。

一方、総人口や高齢者人口の推移は地域差が大きく、持続的に介護ニーズが高まる地域もあれば、既に高齢者が減少している地域もあります。多くの地域に共通して言えるのは、現役世代(生産年齢人口)が急速に減少していくことです。

高齢者が減少している地域でも、それを上回る速度で現役世代が減少するため、当面の間、需給ギャップの解消には至りません。自治体には地域の状況に応じて課題の優先度を整理し、限られた人材・資源を有効に活用できる仕組みを構築することがますます求められています。

Q2 アプローチの方法は?

企業と地域をつなぐ共創プラットフォーム

これまで、介護現場の実態を把握するための調査研究やデータ分析による地域の状況の可視化、自治体の計画策定支援を通した課題整理や施策検討等、さまざまな角度から国や自治体の支援に関わってきました。その一環として、近年は多様な企業との協働による高齢者の生活課題の解決にも挑戦しています。

高齢者の日常生活は医療・介護サービスだけではなく、さまざまな企業のサービスや人とのつながりによって成り立っていますが、身体が虚弱になり介護サービスを利用し始めた途端、それまでのつながりが途切れてしまうケースが多々あります。

そこで、交通、小売、フィットネス等高齢者の生活に関連する企業と、高齢者の生活状況に詳しい地域包括支援センターの職員等が、相互に理解を深めながらサービスの改善や創出を図るための共創プラットフォームの企画・運営を支援しています。

こうした取組により、支援の担い手となる主体を増やすだけでなく、高齢者にとっての選択肢が多様化し、自分らしい生活を継続しやすい環境づくりにもつながると考えています。

Q3 乗り越えるべき壁は?

分野や組織を超えた連携を。
変化をチャンスにできるか

今後は限られた専門人材や医療・介護資源等を真に必要な人に対して適切に投入できるような環境をつくっていく必要があると考えます。そのためには、介護サービス以外のさまざまな選択肢を増やしていくとともに、高齢者自身が支え手となるような活躍の場を創出していかなければなりません。

企業の立場では顧客の高齢化が進み、高齢顧客の維持や新規獲得の重要性が高まります。そこには何らかのサポートを必要とする人も当然含まれてきます。。また、高齢者の価値観や生活スタイル、ネットリテラシー等は徐々に変化してきています。こうした変化をチャンスと捉え、前例にとらわれない柔軟な発想で解決策を考えていく必要があります。

国や自治体の施策やそれを支援する私たち研究員も、超高齢社会の課題を「介護」という視点に収束させず、社会全体の課題と捉え直すことで、地方創生や産業振興施策との連携等、分野や組織を超えた連携を活発にしていくことが求められていると思います。

Q4 どんな未来を思い描く?

誰もが希望をもてる超高齢社会へ

前提として、必要な人に適切な介護サービスを提供される体制が持続可能な形で整備されることが望まれます。

一方、少し視点を変えて考えれば、高齢者だから、病気があるからといって必ずしも一方的に「支えられる側」になるとは限りません。経験やスキルを活かして誰かの「支え手」になったり、世代を超えて役割を発揮できるような地域共生社会の実現が理想とする未来のひとつだと思います。

「超高齢社会」についてはさまざまな課題が取り上げられ、暗い文脈で語られることが多いと感じます。しかし、私を含め誰もが高齢者になり、やがて介護を必要とする時が来るかもしれません。

地域包括ケアシステムの構築、ひいては地域共生社会の実現を通して、安心して暮らせる未来をつくること。それは現在の高齢者だけではなく、すべての世代が、この超高齢社会を前向きに生きるためにも重要なミッションだと捉えています。

「共創する知」響き合う専門性で未来をつくる