水素の社会実装プロジェクト

「地産地消モデル」で実現する。
コンサルタント × 研究員による
共創プロジェクト
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(以下、MURC)は2022年より「水素の社会実装プロジェクト」を発足。コンサルティング部門とシンクタンク部門の協働により、各自治体で地産地消モデルの水素サプライチェーン構築を支援する等、脱炭素社会の実現に取り組んでいる。部門の垣根を越えたプロジェクトは、社会課題にどのように向き合っているのだろうか。
Ken Agata
安形 健
コンサルティング事業本部 社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部
シニアマネージャー/2018年入社/法学部 卒業
民間企業の事業戦略支援をきっかけに水素分野に携わる。コンサルタントとして自治体とのコミュニケーションや提案内容の構成支援を担う。
Chihiro Kitagawa
北川 智大
コンサルティング事業本部 社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部
コンサルタント/2023年入社/物質理工学院 修了
大学院で燃料電池を研究。プロジェクトでは水素の知見を活かしながら、調査分析や資料作成、顧客へのプレゼンまで一貫して担当する。
Hirofumi Takeuchi
竹内 公文
政策研究事業本部 大阪本部 研究開発第1部(大阪)
上席主任研究員/2003年入社/自然科学研究科 修了
入社以来、都市開発やまちづくり関連の事業化案件に従事。「水素の社会実装プロジェクト」では統括責任者を務め、戦略策定や案件開拓をリード。
Taiki Watanabe
渡辺 太樹
政策研究事業本部 大阪本部 研究開発第1部(大阪)
副主任研究員/2017年入社/人間・環境学研究科 修了
水素分野の経験を積むため入社6年目で民間企業に出向。帰任後は「水素の社会実装プロジェクト」に加わり、サブ・プロジェクトリーダーとして竹内をフォローする。
民間企業と自治体をつなぎ
水素事業を創出
カーボンニュートラルの実現に向け温室効果ガス削減が求められるなか、クリーンなエネルギー源として水素に注目が集まっている。しかし、普及には割高なコストやインフラ整備といった課題も多い。近年は地域で製造した水素を地域で消費する「地産地消モデル」等、こうした現状を打破する取り組みも生まれている。
コンサルティング部門のイノベーション&インキュベーション部でマネージャーを務める安形が初めて水素分野に携わったのは、2021年頃。エネルギー関連の企業で水素を軸とした事業開発の戦略支援を担当したときだった。
“将来的な需要や電源の安定的な確保等の観点から水素活用に有望な地域を見出し、その自治体への提案活動も行いました。採択されて事業化した場合、シンクタンクの力が必要になることから、政策研究事業本部の竹内さんに相談をしたのです”
研究員の竹内も、期を同じくして別の水素関連の案件に関わったところだった。水素はMURCのコンサルティング部門とシンクタンク部門の双方にとって新たなテーマであり、組織を超えて協働する価値は大いにある。
“安形さんとは『このテーマは今後必ず社会にとって重要なものになる』という共通認識のもと、一緒に粘り強く提案活動を続けました”
この取り組みが実り、2023年に2件の案件獲得に至った。ひとつは、工業団地における水素製造・利用モデルの構築支援。もうひとつは、都市開発に伴う水素インフラの構築支援だ。プロジェクトは、自治体支援やまちづくりの知見を持つ研究員の竹内が全体の統括を務め、安形らコンサルタントは水素需要の調査や採算性のシミュレーションを担当する等、両者の強みを活かして遂行された。
新たなメンバーと
「地産地消モデル」に取り組む
これらの案件に加え、安形は1から事業を構築する新たな自治体アプローチを図るなかで各地域との接点を築いていた。そのひとつが大分県だ。
“大分県では先行する実証事業の後継をつくりたいという意欲からも水素関連プロジェクトへの機運が高まっていました。大分県担当者や各協力企業と協議をするなかで『ゴミ焼却発電を起点にした地産地消モデルの水素事業を創出する』という枠組みが生まれ、最終的に大分市の提案に大分県とMURCが共同事業者になる形で、国の事業として採択されたのです”
そしてこの時期に前後し、エネルギー関連企業に2年間出向していた研究員の渡辺が帰任する。渡辺は出向先で、水素やアンモニア等の次世代燃料を活用した事業検討を経験。竹内は以前から渡辺に「戻ってきたらプロジェクトをリードしてもらいたい」と打診していた。
“出向前から環境政策全般に携わってきましたが、この分野の知見をもっと深めたいと考えていました”
さらに、2023年に入社したコンサルタントの北川が、1年間の研修期間を経て、正式にイノベーション・インキュベーション部に配属される。学生時代は大学院で燃料電池を研究しており、水素には馴染みがあった。
“先輩方は水素案件の立ち上げから経験されていますが、私は社内で水素領域が軌道に乗り始めてからキャリアがスタートした形です。知見を活かしながらも、アカデミアと異なるフィールドで、一から勉強させてもらっています”
北川はプロジェクトの具体化に向け、調査分析や資料作成、顧客へのプレゼンまで一貫して担当。渡辺はサブ・プロジェクトリーダーとしてプロジェクト全体の円滑な進捗をサポートし、事業性の確保に必要な条件の整理や、各種シミュレーション等も行った。竹内と安形が切り拓いた道に、水素の知見を持つ渡辺と北川の2人が加わり、MURCの「水素の社会実装プロジェクト」はここからさらに加速していく。
「あるべき姿」を
諦めるわけにはいかない
プロジェクトの鍵は、水素を実際に使用する企業や自治体である「需要家」を、いかに見つけ出すかだ。想定より需要家の確保が難しく、プロジェクト全体の進捗や方向性を見直す場面もあったという。
“価格や供給量等、事業化にはいくつものハードルがあります。水素への期待値の高さから実証実験まで進んだとしても、事業化へのシナリオをしっかり描かなければ、その先の実装へは続かない。そのことに気づかされました”
“地方の企業の方とお話しする機会も多いのですが、皆さん脱炭素の重要性は認識しつつも、やはりビジネスなので投資判断はシビアな企業が多い。この課題をいかにクリアするかが、水素の普及を左右すると感じています”
需要家へのアプローチについて、安形は「未来志向の部分と現実的な部分、その双方が必要」と話す。価格等の現実的な要素はもちろん重要だが、そこをスタート地点にすると議論は停滞してしまう。そこで目を向けるのが「未来」だ。
“水素が何を可能にするかを明らかにし、需要家が関心を抱ける未来像を提示する。こうして『この未来を実現するために今できることは何か』という方向で議論をすることで、コスト削減だけでなく価値創出・価格転嫁も含めたトータルとしての経済合理性を成り立たせる道筋が見えてくると考えています”
脱炭素というテーマは10年、20年といった長期的な視点を伴うもの。日々、目の前の課題に向き合いながら事業を行う企業にとっては、どうしても優先度が低くなってしまう現実もある。だからこそ、竹内は「需要家がいない」ではなく「需要家をつくる」という発想に変わってきたという。
“価格が問題なのであれば、あらゆる方策を織りまぜて価格を抑える提案をする。そうした心構えを持って、需要家を『つくる』姿勢が大切なのだと考えるようになりました。脱炭素は人類が長期的に取り組むべきテーマです。研究員として、コンサルタントとして『あるべき姿』を実現することが我々の役割。諦めるわけにはいきません”
共創で、
まだ世界にないものを生み出す
現在MURCでは、北陸地域の地産地消型の水素サプライチェーン構築を支援している。稼働まで5年以上続くことが見込まれるプロジェクトだ。また、2025年には中部地域の公共分野における水素促進事業を受託。プロジェクトチームには、社内や三菱UFJフィナンシャル・グループからの水素関連の相談が増えてきたという。
“水素プロジェクトは、研究員とコンサルタントの連携だけでなく、東京・名古屋・大阪の各事業所からも知見を持つメンバーが参加しています。まさに総力戦ですね。部門や事業所の垣根を越え、それぞれの強みを活かした共創ができていると感じます”
“フラットにコミュニケーションを図る組織文化なので、若手の意見にも耳を傾けてもらえます。メンバー全員が主体的に検討に加われる体制もMURCの強みではないでしょうか”
MURCが手がけてきた地産地消モデルでの水素サプライチェーン構築は、今後は地方の脱酸素化においても重要な知見となるだろう。安形は、コンサルタントと研究員の協働による成果を強調する。
“コンサルタントは事業構想や戦略立案を通じ、民間企業の意思決定を動かすことに強みを発揮します。今回は、まちづくりや自治体経営の実情に明るい研究員と協働することで、自治体と密に連携をしながら新規領域での事業へのチャレンジを行うことができました。互いの専門性や強みを活かすことで、まだ世界にない新しい価値を創り出せればと考えています”
“私が若手の頃は自分が地球温暖化に関するテーマに関わるとは思っていませんでした。しかし、まちづくりや都市開発といった専門性があったことで、他の専門性を持つメンバーと、実現困難と思われたプロジェクトを遂行することができました。ここで得られた知見は、他の分野にも展開できるはず。世界をより良いものにするために、今後もMURCの仲間とともに挑戦していきます”
組織を超えたオールMURCによる共創プロジェクトは、あるべき未来を見据えながら力強く走り続けていく。
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